しんぶん赤旗に2022年4月1日から4月29日 毎週金曜日に連載
2021年1月、本欄で「これからの時代に合った住まい」を連載しました。木造住宅のリフォームでは、断熱改修を行うことで、省エネルギーで快適な冬の暮らしが実現できたとお伝えしました。
断熱と気密は、北海道の厳しい冬でも快適に過ごすために発展した技術です。その技術を用いて改修した住宅(東京都)で夏の暮らしはどうだったかを報告しましょう。
夏の除湿冷房計画
断熱性能と気密性能を確保した住宅には、冬の室内外の温度差で、煙突効果が生じます。冬の間は、それを利用した温度差換気で、機械に頼らずに家全体の換気をまかなうことができます。しかし夏は、室内より外気の温度が高くなり、換気量が激減します。
そのため、浴室の換気扇を連続運転し、床下に水蒸気を大量に含んだ外気を直接入れないように床下の給気口もふさぎました。
そうすると、浴室の換気扇に引っ張られ、冬の間は温度差換気の排気口になっていた建物上部の換気口から、外気が給気されます。その直下に6畳用のエアコンを設置して、給気された外気がエアコン上部の吸い込み口に入りやすいようにしました。
外気の水蒸気量が多くなり始める6月頃から、給気された外気を除湿するため、そのエアコンの運転を開始しました。
夏の間は、給気された外気を常に、直下のエアコンで除湿し続けることになります。木造2階建ての延べ30坪全体の冷房を、6畳用のエアコン1台のみの利用でまかないました。室内は約26度、相対湿度も約60%に維持されています。
断熱と気密により、暑さの侵入を極めて小さく抑え、暑さの入り口である給気口からの外気をエアコンで除湿し続けることで、過ごしやすい室内環境を実現しました。外はじりじりと暑くても、室内では家全体を快適にしながら、最も暑い8月の冷房の電気代は約5200円(27円/㌔㍗h)ですみました。
調査診断の必要性
気候変動の影響により、夏の暑さがさらに厳しいものになるという予測があります。気候変動対策のために、住宅の省エネルギー化を進める必要がありますが、既存住宅すべてを新築住宅で置き換えていくのは無理があります。ウッドショックと呼ばれる木材価格の高騰、物価上昇などで新築は費用がかかるだけに、既存住宅の改修はますます重要になっています。
住み慣れた住まいを快適にするときに、古くなっているからといって、必ずしも建て替える必要はありません。既存住宅でも、現代の住まいに要求される性能に改善できます。古いからこそ、大工さんの技術をこらしたつくりになっている場合がありますし、良い建材を使用している場合もあります。ぜひ既存住宅を活(い)かして改修しましょう。
その場合には、断熱・気密性能を高めると共に、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)を目指して、太陽光発電パネルによる「創エネ」を行うことも検討したいものです。
一方、建物の基礎が著しく劣化している、雨漏り等の影響が大きい、何度も増改築を重ね構造の一体性が不明などの場合は、改修の難易度が上がるため、事前にしっかりした調査と診断が必要です。それをふまえて、弱点の解消と先を見越した改修を行い、安心な暮らし実現のために、設計者と二人三脚で進めることをお勧めします。
断熱・気密性能の低い家では、高性能のエアコンを取り付けても、エアコンの前だけしか効果がなく、無駄な働きをしていることになります。
でも、しっかりと断熱することで、6畳用エアコン1台で家全体の温湿度を快適に保てます。ご紹介したのは、簡単な仕組みでも、夏・冬共に快適に暮らせる一例です。エネルギー価格の高騰が見込まれる中、断熱改修は、生活を防衛するための備えにもなるのです。 (了)