新聞連載①「住み続けられる地球と住まい」総論

しんぶん赤旗に2022年4月1日から4月29日 毎週金曜日に連載

居住者利益優先の考え方

 近年、日本だけでなく世界中で、激しい豪雨や森林火災など気候変動の影響とみられる激甚災害が多発しています。いまや、私たち人間の活動の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことは疑いの余地がないと、世界中の人々が認識するようになりました。
地球温暖化問題
 2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」が実現できれば、産業革命前からの平均気温上昇を1・5度程度に抑えられると一つの目標になっています。しかし地球温暖化の問題は、脱炭素社会の実現に向けて、もっと根本的なところから、私たちの経済活動、社会活動の変革を必要としています。
既存建築物の有効活用
 建築技術の課題にはどんなことがあるでしょうか。30年までに、消費エネルギー46%削減(→温室効果ガスの排出を10年比で45%削減のことですか?2021年4月22日の気候サミットを踏まえた温室効果ガス排出目標で日本は2013年比46%削減を目指すとしました)の実現に向けて、現在利用可能とされている技術等を最大限活用することです。
 新築住宅ではゼロエネルギー住宅(ZEH=ゼッチ)が推進されています。ゼッチとは高断熱、省エネを実現した上で、再生可能エネルギーを導入し、エネルギー消費量の収支ゼロを目指した住宅です。省エネ性能(16年基準値からさらに20%削減)の確保とともに、新築戸建て住宅の6割に太陽光発電の導入を目指すとしています。
 さらに50年までに、住宅のストック平均でZEH基準の省エネ性能が確保されること、住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的になることを目指さなければなりません。
 このような国の指針を受けて、現在国内の多くの自治体が「ゼロカーボンシティー」の宣言をしています。今、日本の暮らしと住まいで目指すべき姿は、既存の建物を大切に活用することです。
先人の知恵拝借
 日本は海に囲まれた風土があり、地域ごとにさまざまな工夫を凝らした民家が造られてきました。簾(すだれ)や深い軒で夏の日射しを防ぎ、土壁や土間による蓄熱作用、ムクの木や土壁・漆喰(しっくい)による調湿機能が室内環境を安定させます。地窓(床に近い低い位置にある窓)と越し屋根(大きい屋根の上についた小さい屋根)で、自然換気もできます。
 何よりも、木や土、紙、草、竹など身近な素材に囲まれるくらしは安心感と親しみをもたらします。自然素材だからこその調湿作用、気化熱作用を利用した夏の爽やかさと冬の温もり等、素晴らしい先人たちの知恵がいっぱいでした。
 私たちはそうした工夫を取り入れ、応用しながら設計をしています。基本は、国産材を使用した木造住宅の新築や改修です。住まい手の考えをもとに、伝統的な構法に取り組んだり、耐震性能・断熱性能を重視したり、高齢期を快適に暮らす工夫を求めたりしています。
 シックハウス症候群や各種アレルギーなど、住まいで体調不良を起こさない対策として、化学物質を含む建材、内装材を使用しない住宅、自然エネルギーを活用した住宅など、最善の答えを引き出すような努力もしています。
 これらの快適さを生み出す指標は、現段階では全てを計算で表すことが難しく、大部分は設計者の技量に任せられています。私たちは、専門家として知識と経験を交流し、それぞれの個性も生かしながら高め合う「総合力」を大切にしています。それが住まい手にとって一番の利益になるからです。
NPО法人「設計協同フォーラム」
 住む人の生活感や価値観を大切に、暮らしやすく健康で安全な住まいづくりを目指し、1994年に設立。関東を中心に、住宅の新築・リフォームのほか、小規模福祉施設等の設計・監理も手がける。1級建築士事務所と一つのマンション管理士事務所で構成。(了)

 

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